テレビの時間

 
二〇〇二年 
 
家に帰る。
 
やっぱり誰も居ない。
でも、これが普通だ。
 
僕の家には、お父さんのお古の「ケイタイ」が置いてある。
メールができるんだ。
すぐ電池がきれるから、ずっと充電器を差しっぱなしにしてる。
学校にはもっていくな、と言われてる。
 
僕はケイタイを開く。
メールが来てる。
二番目のお兄ちゃん、ヨウくんの「カノジョ」だ。
ヨウくんはもう高校生だから、カノジョがいる。すごい。
一度だけ、会ったことがある。
なんだか不思議な感じがした。
僕にはもちろんいない。
学校には何人かカノジョがいる人がいるけど、
友達と何がちがうの?っていつも思ってる。
 
僕は返信をした。だいぶ文字を打つのにも慣れた。
何故だかわからないけど、ヨウくんのカノジョはこうして僕にメールを送ってくる。
他にやりとりしてる人は基本的にはいない。
なんのためのケイタイかよくわからないけど、
学校でもケイタイは誰ももってない。
だから嬉しい。
 
夕方になって、部屋にオレンジ色の光が差し込む。
誰もいない家にひとりでいると、どんどん寂しくなってくる。
朝や、昼はいい。
だけど夜や夕方はダメだ。
どんどんさみしくなってくる。
ヨウくんのカノジョはそんなに頻繁にメールは送ってこない。
「もっとおくってきてくれてもいいのに、僕はすぐに返してるんだから」
そう思ったけど、それを言ったらヨウくんが嫌な気持ちになる気がして、やめた。
 
一つだけ良いことがある。
誰もいないから、テレビが見放題だ。
誰かがいると、自由に見たいモノを見ることはできない。
僕が好きなのは、ドラマだ。
夕方には、人気だったドラマの再放送や、
海外のドラマがやってる。
正直、どれをみるか迷うくらいだ。
 
ドラマは面白い。
本当は全然違う赤の他人なのに、家族になったり、親友になったり。
この前は、人を助けてた人が、人を殺してたりする。
そういうのを、「演技」って言うらしい。
そして、この人たちは「俳優」というらしい。
テレビにでて、お金をもらっているらしい。
ドラマの種類が違うと、なんだかこう、雰囲気が違う。
よくわからないけど、演技だけじゃなくて、いろんなものが違う。
場所とかもそうなんだけど、うまくいえないけど、
なにかが違う。うまくいえないけど。
海外のやつは更に違う。
人の笑い声が入ってたりするし、外国人なのに日本語を話してる。
でも口と音があってないんだ。これを聞いたら「吹替え」というらしい。
 
 
一人の時間は、大抵テレビをみて過ごしてる。
学校の先生が言っていた。「テレビはあまりみすぎないように」
僕は、テレビが悪いモノだとは思えない。
だってこんなにおもしろいんだから。
そんな注意なんて聞く気が起きない。
「あくえいきょうもあるし、勉強をしなくちゃいけないし」
そんなことを言ってた気がする。
でも、僕はテレビで誰かが人を殺してたって、本当に人を殺したくなったことなんてない。
勉強だって、クラスでは成績は良い方だ。
ちゃんと作り物だってわかってる。
作り物だけどおもしろいから見てる。
ニュースは嫌い。よくわからないから。
芸能人がいっぱい出てくるテレビはまあまあ好き。おもしろいから。
でもやっぱりドラマが好き。
だって、芸能人のワイワイやってるやつは、芸能人が芸能人として出てる。
だから真似できないんだ。
でもドラマは、芸能人が、別の人としてでてる。
そもそもこの世に存在しない人としてでてるんだ。
だから、作り物なんだけど、「もしかしたら」この世のどこかで起きてるかもしれない。
そんなことを考えられるからおもしろい・
 
あ、帰ってきた。怒られるからテレビを見てないフリをしないと。
またね。