4-2=?

 
嫌な湿り気をもった風が漂う。
もう秋のはずなのに、もう夏は終わったはずなのに。
そのくせやけに月は明るく、雲の流れを照らしている。
 
もう「知っている」僕の心境は、複雑なモノだった。
なにも知らないリクやミズキが羨ましい。
その「話」はもうすぐ始まる。
カキゾエやルナに話に解散を申し出る前と少し似てる。
 
 
「ミーティング」と称し、僕の家に集まった。
二階の畳の部屋、蛍光灯が何本かきれており、薄暗い部屋に四名の男。
 
カツキの表情は強張っていた、だが、決意を秘めた、澄んだ目。勇気の目だ。
「やめます」
僕はメンバーの顔が見れなかった。
特に、リクの顔は。
一番歳下で、初めてのガチバン。初めてのメンバーの脱退だ。
心中穏やかなはずがない。
僕が把握していた情報はここまで。この後、予想しなかったニュースを突きつけられることになる。
 
カツキの決意と、説明が終わった。
誰も文句は言えない。無闇に止めるものはいなかった。
僕は、事前に聞いていた旨と、自分の意見を冷静に述べた。
リクも、寂しいながらも、飲み込んだようだった。
そして、
 
ミズキが口を開く。
 
「すみません、僕も、同じタイミングで抜けようと思います。」
耳を疑った。
流石に予想していなかったことだからだ。
 
「おお・・・・・・まじか」なんて、ありふれた言葉しかでなかった。
こんな時に、まだカッコつけているのか、笑ってごまかす自分に嫌気が刺す。
 
「それは、カツキと同じような理由?」
 
ミズキは少し俯いて、言葉を慎重に積み上げるように話した。
 
「・・・それもありますけど、プロになれる未来が全く見えないんです。」
 
「それは・・このバンドがってこと?」
 
「いや、僕個人としてです。練習して、上手くなったなって思っても、
プロの人と比べると、どうしてもそのレベルまでいける気がしない。」
 
いかにもミズキらしい理由だと思った。
それだけに、この意見を覆すことは容易ではないことを物語っていた。
 
カツキとミズキは、元々仲が良い。
前のバンドからの付き合いだ。
その二人だが、お互いに脱退に関して何も話してないようだった。
一人で、悩んできたのだ。
誠実だ。
誠実に、さらに主体的に、自分の未来を考えて、決断したのだ。
僕は彼らを、素直に尊敬した。
見た目が派手だったり、態度が横柄だったり、俗に言うヤンキーみたいな人間にはない、「男らしさ」を感じたのだ。
控えめで、大人しくて、社会のルールの中で、賢明に生きている。
そんなやつらが、バンドなんて不安定なモノを、音楽などという余剰物を、ど真剣にやっていたのだ。
そして、僕とやってくれたのだ。
 
 
 
ミズキの脱退には、正直面食らった。
リクの目にはうっすら涙が浮かんでいる。
でも僕には、止めることなどできなかった。
僕は、彼らが好きだ。
僕やリクとは違い、真面目で、冷静。遅刻なんてしない。それは音楽に対する姿勢にも出ていた。
その半分も吸収できなかったけど、きっと僕の中に残っていく。
それは確信できる事実だった。
 
 
 
 
 
それから時間をかけ、脱退のタイミングを話しあった。
年末のライブで抜けることになった。
 
二人が帰り、僕とリク、文字通り二人だけになった。
「これからどうする?」
その話をしなくてはいけない。
いつまでも感傷にひたっているわけにはいかない。
 
リクは、ある意味で誰よりもこのバンドに懸けている。
計画性はないし、それは盲目的だと言っても過言ではない。
だけど僕は彼のそんなところが好きだ。
その想いが伝わっているから、一番きつく当たってしまうこともしばしば。
一蓮托生、とでも言うのだろうか。
 
正直、一気に二人の脱退は大きな痛手だ。
だけど、僕らは前に進むことに決めた。
まずはメンバー探し。できるだけ前向きにやれることをやっていこう。
もっというのであれば、カツキとミズキが所属していたことを誇れるように。そんなバンドになりたい。いや、ならないといけない。
今回ばかりはリクのおかげで、随分と勇気づけられた気がする。
数式でみればこのバンドは、「4-2=2」
だけど人間はそう簡単じゃない。
僕ら次第で、解は決定するのだから。
 
 
 
 
 
「でも、二人が抜ける前に、なんかしたいっすねえ」
ひととおり話し終わった後にリクがポロっといった言葉がやけに耳に残った。
 
「なにか・・・・」
僕のどうしようもなくポジティブな思考回路は、この危機に瀕しても何かを生み出そうとしていた。