秋、地中の蝉。

 
良くも悪くも、人は「慣れる」生き物だ。
贅沢な料理も、悲しい別れも、その刺激は回を増すごとに薄れていく。
「人」が纏わるものだけは、そうあってほしくないと思ってた。
「慣れたくない」。それが良いことだと思いたくない。思えない。
 
 
 
ひとつのピークを超え、僕らは次の目的を探すフェーズに入っていた。
企画は終わった。
まずまずの結果だったと思う。
もちろん上には上がいる。
悔しさもある程度はもたないといけない。
でもそれ以上に焦ってはいけない。
一歩ずつ、バンドを大きくしていくのだ。
今回の音源リリースで、それとなく知名度はあがったように思う。
バンドやライブハウスのつながりも増えてきた。
このタイミングで、更に頭ひとつぬけるためにするべきことはなんだろう。
企画から数日経っていたが、まだこれってやつは浮かんでいなかった。
シンプルに、音源は、だしたいけど、まだ早いような気もする。。。
 
 
季節は秋。
長いことしまってた服が、タンス臭い。
自宅で過ごしていると、カツキから連絡があった。
「少しいいですか?」と。
 しばらくすると、彼は訪れた。もう日は暮れていた。
 
風が気持ち良い。
僕は季節の中で一番秋が好きだ。
苗字についているから、とかそんな理由じゃない。
段々日が短くなっていく、段々寒くなっていく。
そのくせ夕暮れの日の光は美しくて、物事を考えるのにちょうど良い。
嫌いな夏の後というのもあるのかもしれない。
好きな順で並べるなら、
秋、春のはじめ、冬、春の終わり、ダントツで離れて、夏だ。
 
 
何か、感じ取っていたのかもしれない。
カツキは、真面目なやつだ。
来年には就活がはじまる。
高卒で就職した僕には、大学生の就活の苦労はわからない。
それをしながら、バンドができるのかどうかも・・・。
 
彼が始める「話」だから、
彼を待っていた。
僕は、できるだけ、冷静に。
相手を思いやって意見を言えるように。
そう意識していた。
 
 
風が気持ち良い。秋の虫が鳴いている。
もうセミは鳴くのをやめたみたい。
でも、今でも地中で、来年、再来年の準備をしている。
確かに、生きているのだ。
もしも今来年出てくるセミを探し出して全員殺してしまったら、
ここら一帯だけ「セミが鳴かない場所」になるのだろうか。
そんなことを考えていた。
 
 
カツキが口を開く、
それは僕の予感通りの内容だった。