消去法の果て

 
人のことを思いやる、ってなんだろう。
 
言うことを聞くこと?
相手がいやがることをしないこと?
ダメだとわかってることをしてても注意しないこと?
 
僕はこれからきっと、何百人もの人間と関わっていかないといけない。
「いけない」という言葉を使ったのは、僕があまり人が得意ではないからだ。
勿論、逃げ場所はある。
無人島で一人で自給自足で暮らすか、死ぬかだ。
まだ、そのどちらも選択はしたくない。
つまり僕は「消去法」で、人と関わっていく。
その中には、いろんな人間がいる。
嫌なやつもいるだろう。
優しいやつもいるだろう。
嫌なやつと思わせて、実は良い奴もいるだろう。
優しいとみせかけて、実は悪いやつもいるだろう。
本当に嫌なやつだったとしても、途中で変わることもあるだろう。
本当に良い奴だったのに、途中で変わることもあるだろう。
本当にめんどくさい。
 
一体いくつの、いくつの処世術を身につけなければいけないのだろう。
これからの人生で、関わる人間に傷つけられないために、貶められないために、悲しませられないために。
そのために僕は、一つの予防線をはった。
それは見えない壁だ。
僕の半径一・五メートルに、見えない壁を作った。
誰も入れない。僕が開けさえしなければ、誰も入れやしない。
ご満悦だ。これで僕を傷つける人間は、僕を傷つけられる人間はいなくなった。簡単じゃないか、そう思っていた。
ところがどうだろう。
たまにノックしてくるやつがいるんだ。
「開けて、開けて」と。
僕が自ら進んで、ドアを開ける者も現れ始めた。
となるとどうだろう。半径一・五メートルじゃ足りない。
僕は少し透明の範囲を広げ始めた。
中に入れる人間が一人、また一人、増えていく。
もちろん壁自体を撤去することはない。それは絶対にない。
僕に壁の開け閉めの仕事が増えた。
それは前より、複雑で、辛くなった。
それでも、壁の中で遊んでくれる人間を見ていると、頑張ろうと思えた。
複数の人間が同じ場所にいると、どうしても軋轢を生む。
楽しいことばかりじゃなかった。
「こんなことだったら半径一・五メートルのままにしておけば良かった」
そう何度も思った。
だけど、悪い天気が続くと、決まって雨あがりに光が差し込んだ。
それは、とても綺麗だった。
それは、とても素晴らしかった。
だから僕は、壁の開け閉めの仕事を、責任を持ってやる様になった。
なにより、自分のためだ。
自分の壁の中で、だれかが悪いことをしても、「自分にも責任がある」と反省することができた。
良いことばかりのように聞こえるが、あながちそうでもない。
まず、壁の外の人間が、中に人間がいる分、さらにどうでも良くなった。
「初対面が怖い」と言われることが多くなった。
まあ、別にソレはいいんだけど。
そんなに堅苦しい話じゃない。
ぼくが一人で勝手にやってる話なんだから。
壁は透明で、誰にも見えないんだから。
というかそもそも存在しないんだから。
だから、この壁の中に入るのに、必要な手順もなにもない。
入った自覚も、出た自覚もなにもないんだ。
でもただ、
ただ、壁の中にいる人間は、ぼくにとって、まぎれもなく「大切」だ。
僕は、彼らに直接「あなたは大切だ」と言うことはほとんどないだろう。
でも僕は、もし壁の中にいる人の身になにかが起きたらば、
僕の出来うることはなんでもしたいと思うのだ。
金もない、地位もない。できることなんて限られている。
それはぼくがどうしようもなく奉仕欲求があるというわけではない。
何かが起きた時、それは僕が手を貸すべきかを考える。
ほとんどのことの場合、自分で解決したほうがいいに決まってるからだ。
だから、
本当にどうしようもないときに、なにかができるように。
僕は力をつけたいと思った。
その過程で、傷つけることもあると思う。
怒らせることもあると思う。
この想いが伝わらなくてもいいのだ。
この壁は本当に、有能だ。
簡単に人を出したり入れたりすることができる。
まあいままで、ただの一人として出したことはないのだけど。
 
 
 
 
 
theULTRALEAの初企画ライブは成功した、と言っても良い出来だったと思う。
結構客は入ったし、打ち上げも楽しかった。
バンドととのつながりは強くなった気がするし、なにより良いライブができたと思う。
勿論、反省点はある。
技術や経験の差は、他のバンドのライブをみていて痛いほど感じた。
期待していたWOMCADOLEは、やはり素晴らしい音楽をしていた。
やはり、そこに悔しさみたいなものを感じることが出来ず、なぜか複雑な想いだった。
ただ、彼らはアホだった。
僕が楽屋で「しあわせならてをたたこう」を歌っていると、リズムに合わせて、二階から床を踏み鳴らすようなノリの良さを持ち合わせていた。
なんだか、みんなライバルなはずなのに、そんな感じがしない。
僕はもっとピリついていてもいいと思うのだけど。
だって、「バンドで売れる」ということは、「売れないバンドがいる」ってことなんだから。
そこんとこどうなんだろう。
僕って「売れたい」のかなあ。あまり今のところ考えが定まっていない。
 
とまあ、theULTRALEAの歴史のひとかけらとして、良い一日を作れたのではないかと思う。
だけど、僕には一つ心残りがあった。
 
 
 
ルナが、泣いていたのだ。
 
 
今回のセットリストには、「サーチライト」を組み込んでいた。
アレンジを加えて、前より楽曲としてのクオリティは明らかに高くなったと思う。
 
だけど、なんだか不思議な感じがした。
明らかに良くなっているはずなのに、何かが足りないのだ。
僕はc.u.dのサーチライトをおもいだした。
やっぱ下手だ。
だけど、何かがあるのだ。
その「何か」がわからない。
 
胸を張って、ルナとカキゾエに、「今でも大切に想っている」だなんて言えない。
僕は自分のために、解散を申し出たのだ。それを言ってはいけないのだ。
「サーチライト」は、明るい曲ではないが、決して泣くような曲ではない。
そのルナの泣いてる姿を見て、僕には疑問が浮かんだ。
僕は本当に壁の中の人間を大切にできているのだろうか。
「憎まれても、恨まれたとしても、相手の為を思って」と考えていたが、果たしてそれは真実だろうか。
答えが出ない。
でも僕には、壁からルナやカキゾエを出すことができなかった。
「いつか、僕と出会って良かったと思ってもらいたい。」
本当に欲深い。
そのために、僕はこの人生を貫く必要がある。
道中は、迷惑をかけるだろう。
怒らせてしまうかもしれない。
それでも、死の間際で、僕の言葉が純度百パーセントであなたたちに届きますように。
その時言う言葉は、もう決まっている。