奇妙な友人

 
また、夏が終わる。
日に日に日が落ちる時間は早まっていき、洗濯物が乾かなくなる。
僕らは、毎週決まって小さな箱に篭り、爆音を鳴らす日々を続けた。
十月に、企画を控えている。それまでにやることは無数にある。
 
僕はというと、新たな日課というか、日課というほどでもないのだけれど、
日々の楽しみというか、そういうと難しいのだけれど、
空いた時間にやることができた。
 
それは、COCOZAの社長に会いに行くことだった。
 
 
きっかけは、完成した音源、「u.l.e.p」を持っていった日。
 
 
COCOZAに連絡すると、すんなりと許可がもらえた。
黄色い看板をくぐり、奥の部屋をノックする。
「はぁーい」
少ししゃがれた、あの声が聴こえた。
「ハイおつかれえ。できたん?」と笑顔で出迎えてくれた。
「はい、なんとか・・」
まだどこにも出していない音源を、社長は渡すなりすぐに聴こうとしてくれた。
ところがどうだ、パソコンの扱いに慣れていないらしく、どうやって聴けばいいかがわからない。
「いつもとみゆうにやってもらってるからなあ」
そんなことをぼやいてあれやこれやといじくっている。
「とみゆう」という人は、僕なんかより遥かに前からCOCOZAと、社長と関わってきた人物だ。
no wiseというパワーポップバンドをやっていて、キングサイズだ。何度かライブを見た事がある。
社交的なタイプで、大体の人とはコミュニケーションを取る。日頃喋りかけづらい、と言われることが多いこの僕にも、話しかけてくれる。
 
「・・やりましょうか?」
「良い?たのむわあ」
 
初めて入った事務所で、いきなりパソコンを触るとは思っていなかった。
入れたCDのデータがある場所を探して、確認する。
「再生していいですか?」
「うん」
 
自分の音楽を人に初めて聴かれる時というのは、どうも刺激的だ。
少し恥ずかしいような、それでいて嬉しいような、不思議な感覚がある。
社長は僕らの音楽を、どう感じてくれるのだろう。
 
「少年ナイフ」がそこそこの音量で流れ出した。
焦って音量を下げようとした僕に、社長は、
「もっとあげよ」と言ったのだった。
五・六畳ほどの空間に、僕らの音楽が爆音で響き渡る。
社長は、三曲全て聴き終わるまで、何も話さなかった。
 
およそ十分少々で、観賞会は終わった。
時間より長く感じた事は言うまでもない。
 
社長は「ふーん」と言った様子で、口を開いた。
「一曲目と、三曲目は、いいですねえ。」
「・・・ありがとうございます!」
「二曲目は、ちょっと忙しいなあ」と言ってニカっと笑った。
不思議と、何も嫌な気持ちにならない。これはどういう力なんだろうか。
 
僕は、「社長」という人生に現れた新種の生物に、やられてしまっていた。
話を聞いていたり聞いていなかったり、子どもみたいにはしゃいでいたり、たくさんの人に尊敬されていたり。
芯があって、ロジックがあって、情熱があって、向上心がある。
僕が見てきた年配の人たちに、こんな人はいなかった。
誰よりも深い人間に見えるし、誰よりもこどもにも見える。
とにかく、やられてしまったのだ。
 
 
僕はそれから、なにかにつけてCOCOZAに行くようになった。
仕事帰りや、休み。夜でも昼でも社長の車が止まっていたならとことん通った。
断言しておこう。
社長に取り入って、ノルマを安くしてもらう、とか。ブッキングを優遇してもらう、とか。そんなしょうもねえ目的で通っていたわけではない。
くだらない話、時に真剣な話、社長とのそのなんでもない時間が僕にとってスペシャルだった。
本当に失礼な表現の仕方だとは重々承知なのだが、
「新しい友達。」それがどうしてもしっくりあてはまってしまう。
 
尊敬できて、可愛らしさがあって、会って帰る時には何故か僕は元気になっていた。
ずーっと、社長の話を聞いているだけなのに、だ。
 
実の祖父よりも、家族よりも、会っている。言葉を交わしている。
この奇妙な関係は、まだしばらく続くのだった。
 
 
 
 
ある日、兼ねてより首を長くして待っていた出演交渉の返事が出そろった。
全バンド、出演決定。
theULTRALEAの士気は、高まっていた。