夏の缶詰

 
ホール内はまるでサウナだった。
機材と人間の熱気が飽和して、夏を凝縮した缶詰になっている。
表に屯している人が多かったのはそのためだろう。その方がいい。
僕の中の天秤がいい勝負をして、流れる汗を無視してホールに居残った。
どうやら転換中らしい。多いな、五人組バンドか。
 
しばらくして、「ライブ」がはじまった。
激しいリフ。パフォーマンス。高い声。
テイクマインズプレイス、というバンドだった。
すでに獲得しているのか、最前列にはチラホラノリの良い客がいる。
ライブがはじまるとホールの温度は更に上昇した。
これは、わざと?わざとなのか?いやそんなわけあるまい。冷房が効いていないのか。準備が間に合わなかったのか?
バンドは皆一様に汗をダラダラ流し、全力を尽くそうとしてる。これはなかなかキツそうだ。
バンドマンの大半は太陽とセックスを除くスポーツは苦手なハズなのだ。
日陰で育ち、室内で生きていく。絶妙な温度管理をしなければ、前髪の調子が悪くなる。
見る限り、これはスポーツに近かった。炎天下の中、白球を追いかける少年と、そう変わらないエネルギー消費をしているように見える。
見ている側も、立ってるだけで汗が止まらない。
 
でも僕は、ホールから出ることができなかった。
僕も運動は今は好きじゃない。汗をかくのも嫌いだ。
だけど、目の前で踊る彼らが、羨ましくて仕方なかった。
グチャグチャになって、でっかい音を撒き散らす。バンドの演奏は鼓膜は揺らしたけど、僕の心には一切入っていなかった。
僕はずっと、目の前のステージに僕が立っている姿を想像しつづけた。
観客から見ると、ステージに立つぼくはどんな風に映るのだろう。
僕の声がこのスピーカーを通したら、どんな風に響くのだろう。
出たい。このステージに。暑くてもいい。汗かいたっていい。なんでもいいから、「出たい」
 
 
 
あらかたステージが終わり、外に出ると、日が落ちていた。
夜だとはいってもまだまだ暑いはずなのに、随分涼しく思えた。
今日この場所に来て、僕はエネルギーをもらえたのだろうか。
なんだか少し複雑な気がする。また結局人を羨んでばかりいるのか。情けないな。
どのバンドを見ても結果は一緒だ。
ついつい妄想の世界に足を踏み入れてしまう。
出演していたバンドマンの中には知り合いもいたが、話かける気にはなれず、そそくさと帰路についた。ベルロードを、歩いて帰る。
 
セミが鳴いている。
この声の主はきっとあと数日で息絶えるだろう。
やっぱり、セミは空を飛ぶのを願って、我慢して地中にいるんだろうな。
そんなことを思った。
僕はまだ、地を這う虫ケラ。
これから木をつたい、殻を脱いで、ステージで歌うことを目標に生きている。
そんな僕のことを、他人が知る手立てはない。地中のセミの人生になど、興味はないのだ。
うるさくてもいい。けむたがられてもいい。
大声で歌ってやる。可哀想だと思われるくらい高速で生きてやる。
 
すこしだけ、セミの鳴き声が好きになれた気がした。