牛丼はやめようね

 
「ちょっと・・・・・ここで牛丼はやめて?」
 
「え、あ、すいません!」
リクは慌てて牛丼をもってコントロールルームを飛び出した。
サカモトさんの背中の圧力が数倍上昇した気がした。
数分後、ツイッターをみるとサカモトさんが、「CRで牛丼は勘弁してください。」と呟いていた。最悪だ。
 
期待と不安が入り混じった音源制作も、気づけば最終日になっていた。
 
 
「ハマる」「ハマらない」って重要だとは思う。
ライブにバンドにその他色々、バンドはお客さんだけではなく多方面に「ハマっていく」とスムーズに規模を拡大できる。
コネクションってやつだ。そしてその要因は、人柄、話術、 個性、様々だ。
パズルの一つ一つのように、皆凹凸をもっている。割と広く受け入れられる人だったり、なかなか意気投合しないけどすれば最強だったり。
わずかではあるがライブは何本か周った。。その中でそれなりの数のバンドマンをみてきた。やはり、この世界、クセが強い者が大勢いる。
打ち上げや隙間時間の彼らを傍観する中で、僕は漠然と思っていた。
僕は、「音楽」でハマりたい。
打ち上げのノリや巧みな話術。そんなもので輪を深めるヤツがいる。
ライブもみてないのに、打ち上げとなった途端に話しかけてくるヤツがいる。
辟易としていた。反面教師、僕はこうはなりたくない、と誰にも言わずに心に秘めていた。
 
 
サカモトさんに、ぼくらの音楽は多分、ハマってない。
その事実は辛いものだった。事実かどうかは知る由もないが、
タクミの話との比較。実際に目の当たりにする彼の一つ一つの所作。そこからあくまで僕が感じ取ったものだった。
それでも僕は屈しない。それぐらい、自分の音楽には根拠のない自信がまとわりついている。
ただ悔しいのが、僕自身がサカモトさんが気に入ってしまっているという現状だった。
人によって態度を変えたり、気分の波が露骨に出ていたり、というのは、仕事としては良くないことかもしれない。
だけどピュアだ。逆に平等だ。なによりも音楽に対して誠実に向き合っている気がして、僕はこの三日間で彼の「仕事」を好きになっていた。
 
ハマってほしい人にハマってもらえない、というのは辛いことだ。
だけど曲がりなりにも自分も音楽をピュアにやっているのだ。
話術や打ち上げで仲良くなりたいんじゃない。「音楽」で仲良くなりたいのだ。
今の僕には、真摯にレコーディングに打ち込むことが、唯一できること。
決して、サカモトさんに気に入ってもらう為にやってはいけない。
それが、ぼくのすべき事。やるべき事。
 
 
僕の目の前には、見たことのないマイクが威風堂々、直立している。
レコーディング用の、コンデンサーマイクだ。
 
これから僕はコイツに文字通り息を吹き込む。
ココ最近で一番のピークが僕に訪れていた。
 
生きている気がする。