京都、サカモトさんの遅刻。

 
結局僕のゴリ押しは成功し、めでたく僕らの音源は、京都は西院のラグというレコーディングスタジオにて誕生することとなった。
緻密な予算計算、やはりうまくいかなかった。そこでカツキが名案を生む。
ギターは宅録で録って、それをもっていこう。
その手法により、レコーディング日数は三日間。総予算は十五万程度に抑えることができた。
曲数は三曲。
持ち曲の中で何を音源化するかにはさほど頭は使わなかった。
 
ライブで必ずど頭にヤる、ソリッドでカッコいい「少年ナイフ」
コールアンドレスポンスを生むことができ、最もポップで、受け入れやすい、「H.W.E」
c.u.dの事を想って作り、現状唯一のバラード、「吠える。」
 
「三曲」という制限の中、今のtheULTRALEAを伝えるのに必要な三曲だった。
もちろん欲を言うなら、全て音源化したい。しかし予算の面でこれが限界。
自分たちの野望を叶えるためには、結果を出す必要がある。この三曲にフルコミットし、更なる知名度を。端的に言うと「でっかく」ならなければいけない。
 
僕らは「ラグ」を予約した。
レコーディングエンジニアの指定があり、Swimyの音源を生み出した「サカモトさん」という人を指名した。
あとから調べてみると、この人、シナリオアートも手掛けている。さて、彼の目にぼくらの音楽はどう映るのか。
 
 
季節はもう、夏だった。
うだるような暑さの中、京都へ。
滋賀県民からすると、京都は特別だ。
車から流れる景色に目が散る。風情があって、街行く人は煌びやかに見える。
バンドをしてなかったら、あの人達と同じように、高い服を着て、ので高い飯を食べて、ああして颯爽と歩いていたのだろうか。
同じ京都でも、えらい違いだ。
機材でパンパンになった車に、四人の男がむさ苦しく乗り込んで。レコーディングスタジオに向かっている。
栄えた街並みから少し外れたところに、ソレはたたずんでいた。
「ラグ」だ。
 
車を止めて、店舗に入る。
冷房が効いていて、清潔感がある。受付に予約の件を伝えると、申し訳なさそうに言った。
「サカモトの方が、遅れております。」
僕らも京都の道があれほど混むとは思っておらず、予定時刻は多少すぎていたのだが、まさかエンジニアさんも遅れているとは、
ほほう、僕ら、舐められているのではないか?まあ、当然か。
先に機材を搬入し、彼の登場を待っていた。コーヒーが飲み放題なのがありがたかった。
 
数分後、彼は現れた。
少し高い身長に、短髪で、一見どこにでもいそうな人だった。
ライブハウスで会う人とは違う。一切の派手さがない。
その男は、少し早足で、苦手そうな笑みを少し浮かべ、「すいません、サカモトです」と、そう言った。
 
多少の遅刻などどうでもいい、
そんなことより、ライブとはまるで違う緊張感が僕らを襲っていた。
僕らにレコーディングは早すぎるのではないだろうか。
本当に時間通り録り切れるのだろうか。
サカモトさんの指示で、厚いドアを開き、機材を運び込む。
部屋の中央には大きなデスクに、何に使うのか全く見当もつかない機材達。隅には大きめのソファ。
その空間は、コントロールルーム、というらしかった。

「スゲ・・・」
思わず声を漏らした。
男心をくすぐる、「カッコよさ」。まるで秘密基地だ。
サカモトさんは、そんな僕らを退屈そうに一瞥し、中央の椅子に座って何やら作業を始めた。
なぜかパソコンのアップルマークが逆を向いていて、僕はそればかり気になっていた。