僕らは旗を掲げた。

 
theULTRALEA というバンドの歴史が、ここから始まる。
周りから見ればまだ赤子だ。だけどそうじゃない。
僕と、カツキと、ミズキと、リク。
このバンドは四人の人生の延長線上に配置されている。
何か間違っていたら、このバンドは誕生していない。数えきれない偶然と犠牲の上に、成り立っている。
 
 
堅田ハックルベリーは、琵琶湖大橋を渡り、ほどなくして現れた。
コンクリートの土台に、紺色の建物で、あまりみない形をしている。ここで何本ものライブが開催されてきた。
ハックルベリーに限った話じゃないが、初めてコンタクトするライブハウスは、凝視してしまう。
 
「おー」
みな一様にそんな反応をした。がしかし目の当たりにして緊張しているのは分かっている。早速駐車し、機材を運び入れる。
 
扉を開いた。通路には無数のペイントにステッカー。如何にも「ライブハウス」という感じだ。
「おはようございまーす!」
挨拶は大事だ。ところがどうだろう、ホールはしっかり吸音されていて、僕らの声の反響もしない。
COCOZAとまるで違う。雰囲気。緊張感が更に増加する。
しかしなんだろう、このハコ。作りが変わってる。柱や天井が斜めに走ってる。そういえば建物自体斜めだったな。
ステージにいたっても、角に配置されてる感じだ。扇型。
 
まじまじとホールを見回しているとガサゴソケーブルをいじる男を見つけた。
コワモテだ。身長は高いしタトゥーが入ってる。この人が、店長か?
「おはようございます!theULTRALEAと申します」
その男は、「おいっす」といった感じでドライにあしらった。なんだ、やっぱり怖い人か。
何をしたらいいのかがわからない。荷物はどこにおけばいいのか。それともリハはぼくらからでいいのか。指示を出して欲しい・・・
 
そうこうしていると奥からもう一人、メガネをかけた年配の男。
「おはようございますー。メールしてたカマタですう」
COCOZAの社長と年は同じくらいだろうか。これくらいの年齢になると比較がつかない。なにかこう、独特な雰囲気。ライブハウスの店長って、みんなこうなのか?
ガムを噛みながら、視線はあっちこっち落ち着きがない。
 
「これ、書いてー。」
カマタさんは、それだけ言って、また奥に引っ込んだ。僕らに興味など一ミリも無さそう。
 
 
ライブハウスに来た時の、基本的な流れはこうだ。
 
挨拶をする。
機材を搬入する。
セットリストや取り置きリストなどの資料を提出する。
リハーサルをする。
顔合わせをする。
 
大体こういう感じだ。
カマタさんに渡されたのは、セットリストと音響・照明の要望用紙。担当は決めていなかったが、僕が書くことにした。
「もう、準備してっていいよー」
さきほどの怖い兄さん。
「え、あ、はい!」
あくせくと、準備を始める。確か時間はまだのはずなのに、調子くるうなあ。
カツキとミズキはエフェクターやケーブルをガチャガチャ・・リクがシンバルを落として、「バァアン!」と粗暴な音がホールに響く。
なんか・・・素人っぽいな、恥ずかしいな・・・。
そういう僕もセットリストにてんやわんや。えっと、少年ナイフからの、なんだっけ?照明か、とりあえず、少年ナイフは赤で、オゴトニツグは、何色だ?
 
うまく血がめぐっていない。五月だというのに、変な汗をかいた。
 
「はーい、PAのヨシダです。おねがいしますっ。まずドラムさん、キックから〜」
この人、PAだったのか。第一印象と違って、すごく丁寧だ。
 
表情などみなくても当然、リクをはじめ全員、ゴリゴリに緊張していた。
c.u.dであれだけライブしたのに。こんなんで、このバンド、本当に大丈夫なのか?
僕が想像していた、「大いなる歴史」のスタートとは、まるで違う。
映画だったり、ドラマだったり、これから大きなことを成す主人公達は、もっと堂々としていた。
 
とにかくやるしかなかった。
これがtheULTRALEAの歴史のはじまり。初ライブのはじまりの話である。