輪を踏み越えて。

 
 
リクと僕の境遇は似ていた。
 
高校を卒業したら就職だと決められていた事。
一人暮らしを義務づけられた事。
家庭環境。
高校、就職先。音楽。
そしてトントン拍子でシェアハウス。
何かの縁を感じない方が不思議だった。
生活を送る上で、一気にお互いがお互いのことを見過ごせない関係になり、
誰よりもコミュニケーションを取る間柄になった。
急速に、人間を知っていく。良い面も悪い面も明るみになっていく。
 
 
 
リクは、だらしなかった。
 
 
 
そう、僕も胸を張れるような人間ではない。ただコイツのソレは僕以上。
部屋は汚い。新入社員だというのに遅刻多発(流石の僕も一年目のこの時期に遅刻はしていなかった)、頼んだことをすぐ忘れるし、食器は出したら出しっぱなし、蛇口もたびたび締め忘れる。
僕と彼の間に上下関係が築かれるのに時間はかからなかった。バンドとは関係のない所で、お説教。
 
でもなんかこう、憎めないのだ。
 
説教中はこれでもかというくらいまっすぐ僕の眼を見て、「ハイ、ハイ。」と平謝り。
演技なら分かる。演技じゃなく、「真剣に」僕の話を聞く。それでも一晩立つと羽が生えたかのようにフワフワ遊ぶのだ。昨日怒った事を守らずに。
天性の切り替えの早さ。一言でいうと、アホである。
 
手のかかる弟が出来たような感覚だった。三男の僕が兄で、長男のリクが弟というのも滑稽だけれども。
カツキやミズキは優等生だ。悪いところはなかなか出さない。というかあまりない。
しっかりと他人との距離を測り、自分のわがままを半径何メートルかに抑えているのだと思う。
ところがリクくらいはみ出して人に迷惑をかけてしまう奴は、その分人の懐に入りやすい。
しっかりと僕の懐に入って、彼との「繋がり」は日々、強固になっていった。
 
 
「僕の眼が悪いのは母親譲り。だから僕は嫌じゃないんです。」
いつぞや彼が僕に言った言葉だ。これは僕の心に強く響いた。
同じように「母親」に「痛み」がある僕ら。僕も彼も一緒に救われてほしい。
シンパシー、というのはこういうのかもしれないなと、そう思った。
 
 
 
 
車に揺られてる。運転はミズキだ。彼の親の車を借りている。なぜかベンツなのだ。
コイツもしかして金持ちなのか?と疑ったが、「中古だから全然そんなことないんですよ」と否定した。
車内は大体音楽の話だ。好きなジャンルが違うリクは大抵話に入れず寝ている。
「あーあかんっ緊張してきた」カツキが言う。
「少年ナイフからの〜、オゴトニツグで〜、リハは何します?」ミズキも少しソワソワしてる。
 
僕らは、客観的にどう見えるのだろう、
ライブハウスに着いて、ギターを背負って搬入して、ホールのドアを開けて挨拶したら、もうすっかり「バンド」に見えるのだろうか。
それともまだまだチグハグな僕らを見透かされるのだろうか。
 

僕らのなんちゃってツアーが今日から始まる。全て、出たことがないハコである。
一発目は堅田ハックルベリー。
滋賀県民なら誰もが知っているUverWorldを輩出したと名高いライブハウスだ。
 
緊張してるカツキを小馬鹿にしたのはいいが、僕の鼓動も確かに早くなっていた。