かぞくのじかん

 

遂に、遂にtheULTRALEAと旗を掲げた僕たちの存在を知らしめる時がやってきた。
五月、結成から二ヶ月が経ち、計画していたHAJIMEMASHITEツアーの実行目前まで来ていた。
 
曲もギリギリ完成。曲目はこうだ。
簡単に紹介しよう。
 
少年ナイフ
一番はじめに手をつけたソリッドなギターロック
 
オゴトニツグ
ミズキが一番気に入っていたダンスナンバー。風俗の唄。
 
H.W.E
めちゃくちゃポップ。幸せな世界の終わりを歌った。
 
独りぼっちの戦争
昔から悩んでいた自己分裂。簡単にいうと誰にでもいる自分の中の天使と悪魔の歌。
 
吠える。
c.u.dのことを歌った曲。バラード。
 
スタジオで録ったボイレコ音源を、何度も何度も何度も聴いた。
音質は悪い。だけど僕にとってはどんなゴールドディスクより価値があった。
 
どの曲も、クオリティがc.u.d時代と比べ段違いだ。
僕の頭の中にあるイメージ、ソレを超えてくるフレーズをメンバーが持ってきてくれる事もあった。
 
とにかく、僕は生まれたばかりのこの子どもたちのデビュー戦を、いまかいまかと待ちわびていたわけである。
 
 
それはそうと、僕の私生活にも変化が起こっていた。
「モグラ」との一件があり引っ越してきた旧家、ボロいが大好きな我が家に、住人が一人、増えていたのである。
遡ること一ヶ月、卒業と入学、出会いと別れの季節。そんなある日に僕はとある居酒屋に来ていた。
 
「〜この子はねえ、ホンマにアカンところもあるし、手もかかるけど、すっごく素直でいいところもあってねえ、」
テーブルには食い切れるのか、というくらいの料理が並んでいる。初対面の人と食事をするのは久しぶりだ。僕は緊張していた。
 
席を囲んでいるのは計六名。
僕、リク、リクの妹、弟、リクの父、そして今話してるオカチさんだ。
オカチさんは、リクの親代わりとして長年この家族と縁をつないでいるらしい。
 
だがまた、なぜそんな面々で食事を、と思うだろう。
まだリクが加入する以前、彼はバンドに入る一つの懸念として金銭面的な不安をあげていた。
彼の家の方針で、働き始めたら家を出ていく。つまり一人暮らしをする事が決定していたのだ。
僕と同じだった。僕も高校卒業と同時に一人暮らしをはじめた。
実家ぐらしの同僚がたまらなくうらやましかった。家賃に光熱費、彼らより給料が四、五万安いようなものだ。
そこで僕は提案をした。「シェアハウスをしないか?」と。
僕は家が少し狭くなる、その代わりに家賃をもらう。リクの負担は一人で賃貸契約するよりも随分と軽くなる。
月三万を支払って、僕の住む家に間借りすることが決定したのだ。お互いにとって、利益のある決定だった。
 
想定していた運びと変わってしまったリクの親御さんだったわけだが、僕が職場の先輩にもなることを前向きに捉えてくれたようだった。
そういった事情もあいまって、このお食事会を催してくれたわけである、
にしても妹と弟まで、、と思いはしたが、これも後に価値がついてくる。まあ、それはおいといて。
 
リクの父は、端正な顔立ち、日に焼けて爽やかで、背が高い。みるからにモテそう。
妹と弟は明らかに父親の遺伝子を強く受け継いでおり、容姿端麗。芸能人の一家といってもお世辞ではないほど、華がある。
こうして、目の前で見比べてみると、リクだけ顔の系統が少し違う。きっと母親似なのだろうな、くらいに思ってた。
 
そうして、リクの家族に思い出話やらを、たっぷりと聞いて、その会はお開きとなった。
みる限り、僕のことを信頼してくれたような雰囲気だったので、まずまずの結果だろう。
 
 
ついこの前まで口も聞かない他人だった人間と、一つ屋根の下で生活をする。おまけに仕事もバンドも一緒ときてる。
つくづく人生とはわからないものだ。そんなことを考えて、新しくはじまる生活に僕はすこしだけワクワクしていた。