四人目

 
初の「お試し」スタジオへ行く車内で揺られながら、
僕はほぼほぼリクがメンバーになるだろう、と思っていた。
というのも職場が同じだったということで縁みたいなモノを感じてしまっていたからだ。カツキの言う通り、ドラマーの選択にはベースであるミズキの意見が不可欠だ。もちろんカツキだって。全員で納得し、決めることだ。だがしかし、僕にはそんな気がしていた。事実、それはその通りになる。
 
リクの家は彦根市内で近かった。(これも大いに嬉しい)まだ車も持っていないので住所を聞き、迎えに行く。ところが・・・
 
 
時間になってもリクは来ない。たまらず電話した。
「すいません、今日やっぱり、無理かも知れないです」
「はい?」
 
車内の空気がピリついた気がした。仮にも年上三人との約束をドタキャンするとは、かなり良い度胸をしている。
「いや、それはまずいんちゃう?」
「・・・・そうですね、ちょっとまってもらっていいですか?」
 
リクは一旦電話を切り、数秒後ラインを送ってきた。
「すいません!大丈夫です!すぐ出ます!」
 
一体なんだったんだ・・・・
ともかく予定通りスタジオに入れる事にはなったので、深く言及はしないでおいた。
リクを乗せ、スタジオへ向かう。
 
機材を準備している間にもコミュニケーションを取る。直の先輩であるカツキ、ミズキ。更に上の僕に囲まれて、相当やり辛いだろうなとも思う。
良い事もあった。カツキとミズキが、しっかりと先輩の顔をしている。
不思議な安心感があった。いいかもな、この感じ。
 
リクはというとやはり頭のネジが何本か足りないようで、もうきっと、自分が集合時間に遅れたことを忘れている。デヘデヘいったり、スタジオにテンションがあがっている感じだ。ミズキが一見おとなしそうに見えるが鋭い目を持つコアラだとしたら、コイツはゴリラだ。とにかく落ち着きがない。見た目は細身で好青年だが、なんかウホウホしている。カツキはそうだな。見た目はスタイリッシュだが温厚な性格の鳥系の何かかな。
 
遂に音を出す時が来た。リクにはあらかじめ新曲のデモを送っておいたのだ。カツキもミズキも自分が作ったフレーズのお披露目の場となる。スタジオ内は緊張感で飽和していた。勿論ぼくもバンドで合わせるのは初めてだ。
 
楽曲名は「少年ナイフ」。昔、兄貴がノートに描いていた漫画を思い出して作った曲だ。醜い少年が、同級生が虫にしか見えなくなって、ナイフで刺し殺す話。
まさしくギターロック、といった曲調で、あきらかに「ロックバンド」を意識して作ったモノだった。
c.u.dの頃から、デモとして持っていた曲だが、どうしても当時のメンバーで演奏するビジョンが見えなかった。
キメも多いし、三拍子もある。楽曲としてかなりレベルはあがったと思う。さて、この四人で、どんな「音楽」になる。
 
「ドラム、フォーカウントからで。」リクに合図した。
リクは一つ息を吸込み、ハイハットを四回、強く叩いた。
 
 
一音目、まだ一音しか鳴っていない。それでもc.u.dとは違う。
まずドラム、音がデケえ。そしてベース。ミズキは音を感じて、ピンポイントに。かなりフォーカスを絞って気持ちいいところを狙っている感じがする。
あっという間に一曲が終わった。勿論初合わせということもあり、演奏はグダグダだった。でも僕は興奮していた。それは、カツキもおなじように見て取れた。ミズキは?よく分からない。ひたすら首をかしげたり何かボソボソ言っている。リク。ご満悦の笑みだ。「めっちゃ楽しいッス」そう言って鼻をふくらましている。やっぱりゴリラみたいだ。
 
スタジオが終わった。
僕はまず三人とリク加入の是非を話し合った。
カツキは「課題は十分あるが全然アリ」ミズキは「全然OKです」とあっけらかんとしている。どうやらスタジオ中はひたすら自分との格闘だったらしい。やはりこの男にはどことなく天才感というか、そういう唯一性が漂っている。
 
どうやら決まったようだった。
僕らはリクに正式に加入をオファー。その日のうちに、このバンドのドラマーとして「リク」が加わった。