フォーカウント。

 
ステージでは、転換が行われていた。
金髪の社長自らが、あくせく作業している。忙しそうなので挨拶は後にして、僕はホールの隅っこに陣取った。学生も僕みたいな良くわからん年上がど真ん中にふんぞりがえっていたらやり辛いだろう。僕なりの心遣いだ。
 
しばらくして、BGMの音量があがり、プロジェクターが回収されステージが明るみになった。
そこには、なぜか浴衣を着た男達がいた。卒業ライブだから浴衣。なんとも高校生らしい。まだ何年生なのかは分からない。メンバーの表情からは、緊張と高揚が感じ取れる。演奏が始まった。
よくあるバンドのコピー曲。まあ、そらそうだろう。そういうものである。
 
僕は、ただドラムだけを見ていた。
「ドラマーを探している」その意識がそうさせたのかは分からない。ただ、その男には、「華」があった。
 
正直、ドラムの上手い下手は分からない。分からないし、「興味」がない。
僕が選んでいいというのであれば、「魅力があるかどうか」それに尽きる。
そしてそれに答えはない。個性、人格、能力・・・・その中に当然「華」も当てはまる。
 
顔の形は綺麗で、あきらかに「見られる」事を意識した叩き方、よくしなる腕。ビジュアル好き感は溢れ出ているが、感情、を感じる。俗にいう、「エモさ」がある。
 
バンド全体のパフォーマンスとしては、特に印象に残るモノはなかったが、ドラマーの彼は色濃く残っていた。
 
その後、全バンドが終了。
他に印象に残るようなバンド、ドラマーはいなかった。
さて、どうしたものか。カツキといえばやはり後輩と話している。この時間、嫌だなクソ。
 
ふと見やる方向に、先ほどの「華」のドラマーが数人で話しているのを見つけた。この後の僕の行動には些か疑問を感じる。僕は、高校生数人に近づき、話に割り込んだのだ。
 
「おつかれー」(こんなヤツ、嫌いだわ。)
「お・・おつかれさまです!」
バンドマンとは言っても、かなり礼儀正しい。皆一様に不審者の登場に気を引き締めている。と、思いきや・・。
 
「アキミチさん、ですよね?」
「華」の彼に知られていた。
 
「知っててくれてるん?」
「ハイ。ライブみたことあります。めっちゃかっこよかった・・」
「他のメンバーも知ってるん?」
「勿論!僕、部活紹介のルナさんのドラムみて軽音部入るのきめたんですよ!」
コイツ、はじめは人見知りと思いきや、意外をよく喋る。というか、馬鹿っぽい・・。ステージとかなり印象が違う。メガネかけてるし姿勢もなんか悪いし、笑い方もなんか変だし、悪い意味でギャップがすごいな。いや、それは先にステージをみたからなのか?これからまたライブをみたらそれはそれでかっこいいのか?
とにかく、しっかり高校生だった。
 
「今、何年?」
「三年です!」
「そっか、大学いくん?」
「いや、就職です!」
いきなりグイグイいきすぎか?いや、まあ別にいいだろ。減るもんじゃないし、男同士だし。
 
「そっかあ、ラインおしえてよ。」
「・・・え、あ、是非!」
この「華」の男は「リク」という名だった。
その後そつない会話をして、ようやく解放されたカツキと共に帰路についた。
 
帰りの車内で、カツキに聞いた。
 
「リク、どう思う?」
「・・ドラムにですよね、うーん、どうなんでしょう、アイツ、荒いからなあ〜」
「そうなんや。」
「そうですね。めっちゃアホですし。」
「ぽいな笑 でも友達は多そうな感じした」
「そうですね。悪いヤツじゃないです」
「誘ってみよかな」
「僕よりミズキの意見の方が大事やとおもいます。
ベースとドラムなんで」
確かにな。それはそうだ。正直技術に関しては何もわかっていない。
あるのは、あくまで僕が感じた「魅力」だけ。
まだ誘うのは時期尚早なのかも知れない。
僕は、ミズキに早速ラインした。リクをドラムに誘って良いか?と。
数分後、返事があった。「いいですよ^^」軽いな。
 
ともかく、行動が一番!なので早速夜に声をかけてみることにした。
「どっかで電話できる時間ある?」
僕がそう送ると、すぐに返事が。
「いつでもいけます!」
 
呼び出しをかける。コール音が鳴る。少し鼓動が早くなった。
 
「ハイ、もしもし!お疲れ様です!」
「おつかれ。ごめんないきなり。」
「いえいえ、どうされましたか!」
目上にはハキハキと受け答えする、しっかりしているようにも見える。
 
僕は、単刀直入に伝えた。新バンドを立ち上げていて、ドラマーを探してること。今日のライブで気になったということ。
 
リクはというと、少し、口をつぐんだ。そして数秒考え、口を開いた。
「僕・・就職なんですよね。なのでバンドができるかどうか・・
すごく光栄ですしやりたい気持ちしかないんですけど・・」
 
そういえば言っていたな。だが大丈夫、そこは重要ではない。押しの強さは強い方だ。
「言ってたな、でも俺も就職してるで」
「そうなんすか!え、すごい!」
反応がいちいちオーバーだな。ただ、就職だと厄介なのが僕と休みが全く合わない場合だ。そうなるとスケジュール上バンドを動かすのがかなり難しくなってくる。そこで僕は、リクの仕事の詳細を一つずつ聞いていった
 
「休みは?」
「土日です。」オーケー、クリアだ。
「どういう仕事?」
「工場です!」これも僕と一緒。まあ高卒からの就職は、この辺だと工場が一番多い。
「そうなんや、一緒やん。結構残業とかあるんかな。」
「その辺は入ってみないと・・でもやめる人は少ないって言ってました。」
「ふうん。しんどくないんか。」
「二交替なんですよ。夜勤がないんで他よりそこは楽みたいです?」
ん?僕はひっかかった。僕も就職の際に、求人募集にはあらかた目を通した。そこで、二交替の文字は、あまり見かけなかったのだ。そして・・
 
「え、あの、なんて会社?」
 
「えーっと、知らないと思いますけど、XXXXXXです。」
 
僕は思わず吹き出してしまった。なんとリクの就職先は僕と同じ、灰色の工場だったのだ。こんなこともあるのか。出会ったばかりの二人ではあったが、親近感を覚えるのには十分な素材だった。リクも安心したのか更に前向きになり、僕らはスタジオに入ることになった。
 
電話を切り、眠る準備をする。
僕は。ミズキとカツキ。そしてリクとステージにあがるイメージをした。
早く、音を鳴らしたい。ライブがしたい。スタジオの日が待ち遠しかった。