無自覚のこうげき

 
「ドラムかあ…」
 
回り作業をしながらそのことばかり考えてる。
めでたく「三人目」が加入した僕らのバンドであるが、まだ絶対的に必要であるピースが埋まっていない。リズムの要、人によっては楽器隊の中で最も大事だと言う、ドラム。
 
ミズキ加入から一夜明けたわけだが、勿論僕らの最優先事項は「ドラマー探し」だった。三人で色々と頭を捻ってみたものの、めぼしい候補はみつからなかった。僕はというと、せっかく三人目が決まったこの状態で、間を空けたくなかった。なにも進まない日々、というのが一番恐ろしい。
もちろんc.u.dで一年近く活動したわけだから、ドラムを叩ける人間なら何人かは心当たりがあった。だけどハマらない。気づけば一丁前に、「選ぶ側」になっている。それに気づいた時に多少の違和感はあったが、当然の権利だ。僕の、僕らのバンドなんだ。妥協はしたくない。
 
ちょうど週末に、出身校の卒業ライブがあることを聞いた。
三年だったとしても年齢的に僕の四歳下。知っている人間はいない。おこがましい話であるが、まだ高校生だ。僕ならまだしも、バンド経験の深いカツキやミズキをうならせるドラマーがいる可能性は低い。
それでも一縷の望みをかけて、僕は足を運ぶことにした。一人で行くのも気が引けたのでカツキを誘う。もともと行くつもりをしていたらしい。丁度よかった。
だが、これが大きな失敗だということに、僕はまだ気づかないのであった。
 
 
 
 

グッド・バイ、平日。ウェルカム、休日。
汚れた作業着をコインランドリーにつっこんで、服を選び、車に乗った。
カツキを拾い、COCOZAへ向かう。
 
車内はずっと音楽の話だ。
最近ハマってるバンド。そのバンドの歴史。行ったことがあるライブイベント。その感想。カラオケでたまに歌う程度だった僕とくらべ、カツキは遥かに真面目に音楽を体に入れてきた。少しでも吸収しようとした。彼のおすすめのバンドのCDを借り、意見を交わした。
そういった圧縮した時間を過ごしているので、目的地にはワープできた。といっても遅刻しててもうオープンしてたんだけど。
 
僕の「大きな失敗」はCOCOZAに着くなりすぐに姿を現しやがった。
 
卒業ライブということもあって、高校生がたくさんいた。
まだおぼこさがある男女が蘭々としている。全く知人のいない僕には、この時点で誰が軽音楽部で誰がそうでないかを区別する術がない。がしかし、それは杞憂だったことを一秒後思い知る。
 
COCOZAの前で屯している学生達、そのおよそ半数以上がカツキをみるなりいっせいに、
「あっ!カツキさん!」
「おはようございます!」
「おつかれさまです!」
「きてくれたんですね!」
「ありがとうございます!」
「やべえ、緊張してきた・・・」
 
瞬く間に軽音部員を把握してしまった。
カツキはそれぞれに丁寧に対応していく。
あれ、なんだろう?僕は目をこすった。
 
カツキ、なんかカッコよくないか・・・?
もうそれなりに付き合っているのに、なんだか感じたことのない雰囲気を醸し出している。学生の眼差し、余裕のある仕草、心なしかいつもより背筋も伸びてる気がする。これアレか。ははあなるほど、これが先輩面ってヤツか。(多分少し違う)
僕にたいしていつも少し照れながら話すカツキが、尊敬されている・・敬われている・・尊ばれている・・・!
学生達の僕への視線がいちいち気になる。
「カツキさん、誰ですかあの天パは」
「尊いカツキさんとライブに来るなんてずるい!」
「まあ僕たちはカツキさんにしか興味ないですけどねフフフ」
 
そんな声が頭に鳴り響いた。
 
要するに、要するに、気まずかったのだ。
こんなはずではなかった。
 
「ええよ、カツキ。俺一人で先はいっとくわあ」
精一杯の虚勢。本当に情けない。しっかりとダウナーに入った。
金を払い、入場する。ホールには結構な数の高校生がいた。どうせこいつらも、みんなカツキの後輩だ。カツ輩なんだ結局。嫌いだチクショウ。
 
とまあ僕は盛大に失敗を犯したわけだが、人生というものは不思議なもので、悪いことがあれば良いことが巡ってくる。実際にこの後ぼくは、自分の人生を左右する、大きな「出会い」を体験することになるのだ。
 
そう、「良い」方のね。