×××××の息子

 
まだ部屋には段ボールが開かれるのを待っている。
 
ボロボロの一戸建て。僕には十分すぎる大豪邸だ。
ワンルームから急遽一戸建てに住むと、逆に困るんだな。どこをなんの部屋にしたらいいのか分からない。あれやこれやと考えながら、ひたすら掃除の手を進める。5LDKの役割分担。僕はこういうのを考えるのが好きだ。
 
この家は、何度も言うが、古い。ビー玉を床に置いたら転がっていくし、風呂の磨りガラスの引き戸なんて、最後までしまらない。ところが、その中で、一室だけ小綺麗な空間があった。
十畳ぐらいだろうか。和室二部屋分を打ち抜いて、事務所用にリフォームの手が加えられている。床はフローリング。壁紙も他の部屋よりずっと綺麗だ。
僕はこの部屋をメインルームにすることにした。自分の城の、王様の部屋だ。本棚に机にテレビにベッド。生活用品以外を全て一室に収納してしまった。あと四部屋、どうしよう。
 
設置したベッドになだれこむと、少しの休憩のつもりが眠ってしまっていた。カーテンもない部屋。窓の向こうはもうすっかり日も落ちていた。
 
どれくらい眠っていたのだろう と身体をおこすも携帯が見つからない。時計もまだ段ボールの中だ。僕はもう一度ベッドに突っ伏した。その時、懐かしい匂いがした、気がした。
 
約十年前、確かに僕はここにいた。ここには、家族があった。
真っ暗なリビングの中で、ビデオの早送りのように人や物が動き始める。しばらく沈黙が続いたかと思うと、今日の僕が入ってきた。
しっかりと自分に流れている時間を感じる。
「この家」への引越しは、ただ間取りが広くなっただけじゃなくて、ただ懐かしいだけじゃなくて、僕にとって大切な感情を教えてくれた気がする。ここは、「古くて新しい」。
僕は、これからを想像してみた。過去から現在への早送りのように上手くはいかなかった。変にギクシャクしたり、途中で途切れてしまう。
 
今僕は、二十一歳。
ロックに出会った。バンドに出会った。
少し、真剣にやってみようと思う。
他人からすると、不真面目な選択だと思う。だけど、僕にとってそれは「真面目」なことな気がしていた。
勉強はそれなりにできた。とくに努力もしないで高校に行った。
部活動。それなりに厳しい環境だったけど、胸を張って「頑張った」とは言えない。
恋愛。それなりに経験はしているだろう。
仕事。退屈で仕方がない。誰だってできることだ。
 
「頑張れる」環境がほしい。
僕にとって、安定よりも、周囲の安心よりも、なによりも、それが大切の様な気がした。
 
僕の存在は、初めから、マイナスだ。
✕✕✕✕✕の息子だ。それはわかってる。
だけどぼくはそうである自分を誇りに思いたい。救いたい。
そのためには、「普通」ではダメなのだ。
「普通」に会社員として納税し人生を全うする。
それは素晴らしいことだ。「プラス」である。
だけど僕がそれをやっても「マイナス」から「ゼロ」にいくだけ。
✕✕✕✕✕の存在まで肯定する結果にはならない。
アレがあったからこうなった。
その為には超弩級の逆転サヨナラホームランを打つしかない。
 
初めて曲を作って体に流れた電撃をまだ信じれている。
さっさと片付けて、バンドメンバーを探そう。
 
そんなことを考えていたらまた眠っていた。