生まれた意味を知る景色

 
●初ライブのセットリスト
サーチライト
空症
私色定理
MENTOL
シンキロウ
 
「COCOZA」のステージのは幕代わりにプロジェクターのスクリーンが、ホールとステージを遮っていた。
 
その隙間から、人の気配が伝わる。期待、あるいは様子見。僕たちに向ける関心の内容は人によって当たり前だが、違う。頭では分かっている。「どうせ僕らには誰も期待していない。思い切りやればいい」だけど手の震えが止まらない。チューニングが終わってしまった。準備ができてしまった。
 
BGMが大きくなり、スクリーンが上がっていく。このたった数秒の間に、何度、「もっと練習しておけばよかった」と思ったことだろう。スタジオでよくミスる所。手元を見ないと弾けない所。よく歌詞をミスる所。そういったところが大袈裟でなく走馬灯のようにフラッシュバックした。
 
一曲目は、「サーチライト」だ。僕が生まれて初めて作った「音楽」だ。なんとなく、一番最初に演奏するのはこの曲にしたかった。ディレイを効かせた僕のギター。そのアルペジオが終わったら、ルナのツーカウントで、イントロが始まる。
 
 
一人で生きてた。鼓膜の途中で止まる声の意味

もう、過ぎてく列車の音に飲み込まれて、「君に会えないの?」
 
 
良かった。思ったよりは声が出る。だけど、どこを見たらいいのかがわからない。ホールはバンドマンとお客さんで結構埋まっていて、どこを見ても目が合ってしまう。なんでみんな僕のことばかりみるんだ。ああボーカルだからか。なんかテンポが早い気がするな。ルナも緊張してるのか?この場所からだと、いつもみたいにメンバーの姿が見えない。なんだか落ち着かない。
 
およそ、そんなことを考えていたと思う。唯一の救いは、最前列を陣取っているルナの友人達が、終始満面の笑みで見守ってくれていること。なんて輝きだ。彼女たちの名前も何も知らないけど、まるで聖母のようだった。間違えないように、間違えないように。数秒後に僕が歌う歌詞を、僕が弾くギターを予習しながら演奏した。そんな感じだった。
 
ステージは暑い。暑いんだけど、どこか冷え切っている。どこかぎこちないまま、着々と時間はすぎ、一曲目、二曲目とライブは進行していく。
 
「初めまして、cloudy under dogといいます。今日初ライブなのに、熱を出してしまって、アレなんですが、頑張るのでよろしくお願いします。」
 
「MC」と言われる曲の合間に話すタイミングで、そんなことを言った。僕が喋ると、ホールからはパラパラと小雨程度の拍手が響いた。
 
「あまり、楽しくない。どころか、辛い。」メンバーはどう思ってるんだろう。わからないけど、このライブの出来はあまり良くないんじゃないか?初ライブだから、こんなもんなのか?カツキもカキゾエもルナも。楽しめているのだろうか。
 
そのままのテンションをひきづって、三、四曲目へ入る。四曲目の「MENTOL」で弦を切ってしまった。更に負の要素を生んでしまった。もはや、ルナの友人の顔も見れない。微笑んでいてくれた女神達の顔がもし曇ってでもしていたら、僕はもうダメだろう。メンタルは憔悴しきっていた。
 
なんとか四曲目も終わり、二回目のMCへ、「弦、切れちゃいましたハハハ」と情けなくボヤくと、カツキが僕を呼んだ。後ろを振り向くと、そこには、Junkのマツオカフミヤ。手にはエレキギターを持っている。
 
一瞬ポカンとしていると、弦の切れた僕のギターとソレを交換してくれた。ああ、そういうことかと、お礼を言った。
 
ただそれだけのこと、それだけのことなんだけど。少し楽になった。それまで、ホールとステージの間どころか、「僕」と「僕以外」に透明の壁みたいなものを感じていたから。人と関わって、少しだけ、ここにいてもいいんだと思えた。
 
だから、最後の曲、「シンキロウ」は少しだけ、気持ちよく歌えた気がする。いつもと違うギターだったから落ち着かなかったけど、それでも、「バンド」として演奏出来た気がする。それまでは、僕は、一人でステージに立っていた。ただでさえど素人なのに、一人でなんてそら無理な話だった。僕らはバンドだ。下手くそなら下手くそなりに、力を合わせて音楽を表現すればいいのか。少しは収穫があった。気がした。
 
「ありがとうございました。」
 
スクリーンは降りた。機材を片付けて、タバコを吸った。他人からの「評価」が怖くて、相変わらず隅っこに陣取ったけど。ルナに渡された体温計で測ってみると、なんと熱は平熱!後から知ったけど、どうやら「知恵熱」というものだったらしい。そらそうかもしれないな。人生で一番緊張したし、一番ヒリヒリした。体は楽になったけど、もう二度と体験したくない。
 
次のバンドの「Hi-energy」のボーカルが、MCで、「風邪なんて関係ないからな」なんて言った。
 
怒りなんて感じなかったよ、「そらそうか、そうだよな」ヘラヘラしてるように見えても、みんな僕なんかよりも遥かに音楽に時間を使ってきたんだ。経験してきてるんだ。僕は、何者でもない。ステージで体調不良を訴える僕を見て「なめんな」って思ったんだろうな。怒りはない。でもなんだろう、悔しい。
 
「Hi-energy」のステージは堂々としたものだった。
 
少し古臭いような音楽だったし、ボーカルも、不器用な歌い方だったけど、でも、カッコ良かった。
 
あっという間にステージは終わり、次でラスト。
 
「トリ」を務めるのは、僕が羨望していた、Junkだ。