黄色の建物

 
この日僕は人生を変える出会いをすることになる。
 
人生の分岐点はソレによって様々だ。
 
「あ、コレ、人生変わるな」と既に見えてるものもあれば、通り過ぎてからあとで気づくものもある。僕にとってのこの日のソレは、後者の類だった。
 
そのことに僕はまだ気付いてないし、その後もしばらく気づかない。
 
僕らは、カツキの元メンバー、ふーちゃん、むらきょーなる人物の企画したイベントに出るために、滋賀県の田舎道を車で走っていた。そう、初ライブである。この日のために、何度もスタジオに入った。何度も僕の家に集まって、あーだこーだとバンドの話。そうそう、バンド名も決まったんだった。
 
cloudy under dog(クラウディ・アンダー・ドッグ)
 
空想する負け犬、という意味だ。
 
全部小文字なのが、僕らっぽいね。みたいな会話をして、なんか少し恥ずかしいけど、みんな気にいってくれた。「c.u.d」なんて略したりしてね。
 
最大限の準備をして臨んだ。はずなのに、僕はこの日四十度近い熱を出した。
 
流石に運転はできないのでカキゾエがしてくれている。
 
「ほんまこの日に限って、ってやつですね笑」
 
「カイさん歌えるんー?」
 
正直意識が朦朧としていて、車中の会話は途切れ途切れしか思い出せない。咳が出るわけでもないし、みんな、初ライブだということで沢山お客さんを呼んでいた。ルナに至っては一人で十人近く呼んでいる。
 
そうこうしているうちに、目的地に到着した。近江八幡の田舎に、ソレはレストランに併設して。
 
「COCOZA」と黄色い文字で描かれていた。
 
荷物と機材を持ってその建物に入る。薄暗い。
 
入るやいなや、気の抜けた声がホールに響いた。
 
「おはよ〜」
 
「おお、フウキ!」
 
ルナが「フウキ」と呼んだその男は、なんとも眠たいような、気怠いような、それでいてとてもホンワカしてリラックスできる空気を醸し出していた。その雰囲気とは対照的に、耳には数多くのピアス。個性的なTシャツ。派手な髪色。
 
「バンドマンっぽい….」僕は無意識に威嚇していた。と思う。どうも人見知りは治らないし、「フウキ」と呼ばれる彼と、仲良さげに会話するルナとカツキ。同じメンバーなのになんだか遠く感じるぞ。なんだコレ。体調も悪いしで妙に不安になってカキゾエをみる。彼は様子を伺うように、フウキ達を観察している。「おっしゃ!」心の中で唱えた。
 
「おはよーございまーす」
 
また別の声が聞こえる。バーカウンターからでてきたその男は、フウキとは対照的に、目つきが鋭い。背は低く、顔色も悪い。性格が悪そう。性格がキツそう。とにかく第一印象がとてつもなく悪い。どうしよう。そして、バンドマンっぽい。僕の彼に対しての威嚇レベルはフウキに対してのソレを大きく上回った。
 
「むらきょー!おはよ!よろしくお願いします!」
 
どうやら彼が「むらきょー」らしい。あとで聞いた話だが、名をムラタキョウタという。だからむらきょー。安易だ。
 
そんな危険信号を発すべき存在に対しても、うちのルナは駆け寄っていく。なんてことだ。こんなコミュ力の怪物がいただなんて気づかなかった。カツキも普段と何か違うぞ。バンドマンに見える。もはや全て怖い。今、安心するのはカキゾエの隣という、謎の状況。
 
「体調不良」という傘を被り、僕はそそくさと楽屋と紹介された部屋に避難した。