激安スタジオと初ライブ

 
それからの僕の日々は、大袈裟にいうと何かに取り憑かれているようだった。
 
週末の地元の友達の誘いも断ることが増え、女遊び用の出会い系サイトもやめた。日に日に「バンド」に使う時間が増えていく。この音楽に、ドラムとベースとリードギターが乗ったら、どんな風になるだろう。その景色みたさに、ひたすらに曲を書いた。誰がどうみても、稚拙だ。作り出したdemoはギターとボーカルしか入っていない。なんとか、ギリギリ音楽として形はたもてている、程度。いや、それすらも為し得てないかもしれない。そんなことはどうだっていい。ただ、楽しかった。ただ明るかった。たった何ヶ月かの間に、楽曲は十を超えた。メンバーが追いつかないほどだった。
 
一度エンジンがかかると、周囲を置き去りにしてしまう。それまではダラダラしてるのに。その性質は昔からだとは思う。ただ、このバンドのメンバーは、少なくともまだその僕の「悪い癖」を悪しきモノだとは捉えてなかった、と思う。少なくとも、賞賛してくれていた。
 
そんなこんなで、元々は四曲のコピー曲に一曲のオリジナル曲でライブ。を目標としていた僕らだったわけだが、強引に路線を変えた。気づけば「全曲オリジナルで初ライブ」を掲げ、毎週毎週スタジオに入るわけである。
 
竜王町、という片田舎に、イレブンギターというギター工房さんがやっているスタジオがある噂を聞きつけた。そこがなんと丸一日使って八千円!一人当たり二千円で使い放題なのである。作曲にうってつけだった。僕らが住む街からは車で少しかかるものの、僕らは足蹴くそこに通った。
 
「おっしゃ、休憩しよか」
 
「タバコー!」
 
このバンド、楽曲はポップなのに全員喫煙者である。
 
「もうそろそろ、へのもへ初ライブの時期ですね。」
 
「へのもへ」というのは「へのへのもへじ」の略称。このバンドの仮のバンド名である。究極にダサい。仕事中とかに勝手に色々考えてるんだけど、バンド名考えるのって本当にむずいなあ。
 
「学校のツレもみんなライブしたら来るって!」
 
ルナは友達が多い。彼女の男勝りな性格と、どうしようもない明るさが人を寄せ付けるのだろう。確かにこのバンドも、ルナがいることによって一・五倍の明るさを放っている。
 
「いーよなあ、ルナは友達いっぱいいて」
 
カキゾエはというと、対照的に友達は少ない。明るさやガサツさはルナと同じなのに。コイツはすぐイライラするからなあ。ルナはマイペースなようで人の空気に敏感で、カキゾエがイライラしもすぐに誤魔化してフォローをいれる。カツキは大人だし、俺は年下というのもあって落ち着いた目でみることができる。そんな環境もあってカキゾエはここにいやすいのかもしれない。
 
「そういえば、僕らライブできそうです。」
 
「え!」カツキの方を一斉に見る。
 
「前話してた、ふーちゃんとむらきょーがイベントするみたいです。それに「どう?」って。」
 
ふーちゃんとむらきょーというのはカツキの前のバンド、コスモスのメンバーで、今は違うバンドで活動している、と聞いていた。そして、ライブハウスのスタッフとして働いている、とも。
 
鼓動が早くなった。初ライブ。自分が作った曲が、バンドの曲となって、人にみてもらえる。
 
「曲は五曲はできそうですけど、練習しないとヤバイですね。」
 
「ほんまやな!早よやろう!ルナ、もうタバコ終わり!」
 
「えー」
 
ライブ。この四人が遂にバンドとしてステージに立つ日が決まった。
 
期待と不安が半分ずつ。僕らは時間ギリギリいっぱいまで、何度も曲を合わせた。