シンキロウ

 
「バンド名かあ〜」
 
鍋をつつきながらボヤいた。
 
僕の一人暮らしのアパートで、4人は集まっていた。バンドを初めて少し経ち、僕らは急速に仲を深めていった。スタジオに入っては集まって鍋をして酒を飲む。半々ぐらいの割合で開催される飲み会。元々溜まり場だった僕の部屋のソレはバンド結成により加速した。
 
「とりあえず、ライブしたいっすよね」
 
カキゾエはせっかちだ。
 
経験値の差は思ったより障害ではなかった。カツキは優等生だ。しっかりと練習をするが、下手な僕をみても嫌な態度はとらない。カキゾエもルナもそこまで上手ではなく、普通にミスる。年上だという事もあり、下手くそながら僕は徐々にリーダーシップを取り始めていた。
 
「まだライブはキツいやろー。」
 
正直なところ、趣味で始めたバンドだし、なんだか自分の居場所が新しくできた感覚で僕は充分満足していた。コピー曲のエルレガーデンのAutumn songも、RADWIMPSの遠恋も。ロクに弾けないけど。
 
「コピー曲五曲ぐらい練習して、ライブしましょう!」とカキゾエ。
 
「ライブしたーい」ルナは酔っている。
 
「オリジナル一曲ぐらい作るのもいいかもしれないですね。」カツキ。言ってる事は、まともだが、顔が真っ赤だ。
 
「かっちゃん、それイイな!!」
 
カキゾエとルナはカツキのことを「かっちゃん」と呼んだりもする。そんなことより、オリジナルか。面白いかも。
 
「カイさん、よろしくお願いします!決まり!コピー四曲に、オリジナル一曲!」
 
展開が早い。そういえば前のボーナスで買ったMTRがある。やってみるか。
 
でもロクにギターも弾けない僕にバンドの曲なんてできるのだろうか。ギター一本で適当に弾くのとはわけが違うんだろうな。
 
僕らが住んでる街には、fill inというスタジオがある。コンテナを改造して作ってあるんだけど、なぜかガラス張りで外から丸見え、音も丸聞こえ。僕らみたいな下手くそバンドからしたら恥ずかしいったらありゃしなかったが、それも何度か入るうちに、慣れた。
 
この日はオリジナルを作る日。僕はアレからMTRを使って、「シンキロウ」という楽曲のdemoCDをみんなに渡していた。それぞれがフレーズを考えて、スタジオで合わす、初めての日。なんとか形にはなったけど、正直どう思ってるんだろう。期待と不安でいっぱいだった。
 
スタジオに全員集合。それなりに仲良くなったのに、変な緊張感がある。
 
録音はできたけど、立って、ギターを弾きながら歌うのには慣れてない。照れる。
 
楽曲の構成はシンプルだ。ギターとボーカルだけで、サビを歌い、その後イントロが始まる。
 
本当に大袈裟じゃなく、電撃が走った。
 
全員不慣れだし、伺いながら演奏をする。ルナはリズムをキープするのに必死だし、カキゾエは覚えたコードをなぞるのに必死だし。カツキはイントロでは自分で考えたフレーズを弾くもんだから、少し恥ずかしそうにしてる。
 
それでも、それでも最高だった。僕はこの日生まれて初めて、自分の曲を「バンド」で演奏した。
 
コピー曲で大きい音を出して弾いてるだけでも充分楽しかった。だけど比べもんにならない。この曲は、僕が考えて、僕が作ったものだ。大体のテンポも、歌詞もメロディも。全て。その足りない部分を、メンバーがそれぞれ考えて、一つの音楽が鳴っている。やべえ。めっちゃ楽しい。どうしよう。
 
僕から見るに、メンバーも楽しそう。ゼロからモノを作るってこんなに楽しいのか。カキゾエもルナもオリジナルは初めてだからわかるけど、カツキも楽しそうなんだ。それが嬉しかった。
 
その日結局「シンキロウ」を何度も合わせて終わった。
 
僕の中で、ずっと抱えてた霧が一気に晴れるような、そんな一日だった。