電話の相手は

 
電話の相手は高校時代の部活の後輩であるカキゾエだった。
 
よく言えば行動力のある、悪くいえば自己中心的な奴で、こうして突発的に電話をかけてくる。高校時代僕はハンドボール部に入っていて、その頃からの付き合いであるわけだが彼は何故かその頃から僕のことを慕っていた。休みを返上して熱心にサイドシュートを教えてあげたのに、気づけば彼は辞めていた。まあ色々あったんだろうけど。
 
「カイさん、バンドやりません?」
 
「カイ」というのは僕の当時のコートネームだ。当時から付き合いのある人は、僕のことをそう呼ぶ。
 
「・・・誰と?」
 
実はカキゾエとは一度バンドを組みかけて頓挫していた。僕の中学時代の友人と、これまた部活の後輩の計四人で始めたわけだが、練習には遅れるわ来ないわ曲も覚えないわで、瞬く間に空中分解した。仕事もしてるから、それなりにはお金は入ってくる。調子に乗って買ったギターは自宅で出番を待っていた。だけど、まあ本気でバンドなんてやるつもりは一切ない。でもやるんだったら前みたいのは嫌だな。
 
「コスモスのカツキと、ルナです。知ってます?」
 
勿論知っていた。カツキとは直接話した記憶はない。だが、彼のバンドは知っている。同じ高校の軽音楽部で、別の高校のメンバーと活動していた。オーディションとかも受けていて、言わばバンドの経験は僕と天と地ほどの差があるわけだ。彼の名前が挙がったのには正直驚いた。
 
ルナってのも存在は知っている。カキゾエとカツキと同級生で、確か軽音でドラムをやってた女の子。
 
「分かるで。逆に俺のこと知ってんの?」
 
笑いまじりに聞いた。
 
「知ってますよ、カイさん有名人ですから」
 
コイツの言葉はいつも軽い。まあ、軽音楽部は好きでちょいちょい顔は出してたし、なんなら卒業ライブにも少し出たし、存在ぐらいは知っててもおかしくないか。ああそうか、文化祭の映画か。高三の文化祭で僕は出し物の映画の脚本を書いて準主役を演じた。狭い高校の文化祭でそれなりに目立ったのも事実。とまあ、理由立てて、「僕は有名人」という言葉を如何に否定するかに脳味噌を使った。
 
「まあわかったで、とりあえず一回集まってからにしよ。」
 
「さすがカイさん!いつ空いてます??」
 
コイツは自分のことを乗せ上手だとでも思っているのだろうか。だが実際に乗せられているのも事実。空いている日程を伝え、彼からの連絡を待つことにした。
 
昔から音楽には興味があった。
 
家にはクラシックギターが転がっていた家だったし、兄貴二人もギターを弾いていた。僕がギターを弾くようになったのは必然といえば必然だったわけである。
曲なんかも稚拙ながらも作っていた。覚えたてのコードで、サビしかできてないんだっけ。なんて曲だっけ。家に帰って古いノートを引っ張り出してみた。そこには「サーチライト」と仰々しくタイトルを付けられた一説が書かれていた。
 
「サーチライト、僕を探して。あのサーカスに連れていって」
 
新しいバンドか。しかもあのカツキと。
 
悔しいけど少しワクワクしていた。