吠える。

 
「このバンドは、終わりにしようと思う。カツキと俺は新しいバンドを組む」
そういった内容を、できるだけ丁寧な言葉を選択し、二人に伝えた。
 
カキゾエは、見るからに苛立っている。
ルナは伏せっている。
 
二人のバンドに対しての姿勢が気になっていたこと。
でもそれは決して悪いことではないこと。
できるだけ、誠実に話せたとは思う。それでも、彼らの気分がスッキリするわけなどなかった。
理解ってる。
彼らがこのバンドを愛してくれていることくらい。
それが比べようもないことも、理解ってる。
怒るのも、無理はないと思う。
もうどうしようもないことだと分かっていても、カキゾエは怒りをぶつけてくれる。そういうヤツだ。コイツは。このストレートな性格に、散々振り回されたこともあったけど、同時に救われてもいた。そして何より彼のこういう性質が、このバンドを作り上げた。
ルナ、ルナは泣いてるようにも見える。普段は気丈に振る舞ってはいても、本当はとても繊細なヤツだ。いつも、誰よりも「輪」を大事にしてくれてたことも知ってる。男メンバーに囲まれて、異性特有の煩わしさを一切感じさせなかった。それは彼女のおかげだ。
 
やっぱり、カツキも含めて、僕はこのバンドが好きだ。
それは間違いない。だけど、それを今の僕が「言ってはいけない」。
 
僕は、このバンドを、捨てる決断をした。
ロクな相談もしないで、一方的に自分だけ次に進む決定をした。
そんな人間に、甘い言葉をささやく権利はない。
 
僕らの決断が固いものだと理解した彼らは、投げやりであったとしても理解してくれた。残りのライブのことや、簡単なスケジュール確認をして、僕らの「解散」は決定した。
 
いつものように、世間話などできるはずもない。そそくさと帰路に着く。
予想していたことではあったけど、僕もカツキも、直面してそれなりに想うことがあるようだった。特に会話はなく、それぞれの日常へ帰宅する。
 
季節は冬、日が落ちるのは早い。もうあたりは真っ暗だった。街灯を追い越していく。
 
「いけないことをした。」わかってる。
僕に、感傷的になる権利はない。
本当に彼らに対して「悪い」と思うなら、今ここで「謝る」ことは正解じゃない。
裏切って、捨てて。それでも手に入れたい未来があったんだと。見たい景色があったんだと。それを証明できるのは未来の僕で、その道は目の前に続いている。僕にできることは、ただただひたすらに、「歩く」ことだけだ。
 
でも。
 
でもきっと、僕はこのバンドを忘れることはできないだろう。
それくらい楽しかった。眩しかった。綺麗だった。
稚拙だったかもしれない。ままごとのようなものだったかもしれない。
それでも僕は忘れられないだろう。
胸にしまっておくことだけは許してほしい。
いつか、また笑い合える日がくるまで。
 
 
 
重い傘を持ってどうしたの?
涙降らす雨雲ならもう、
空が生まれ、終わる場所で
溶けて消えたのを見つけたよ
 
行き違って歪んだ僕らも
いつかは物語に変わるのかなあ
その時はさ 主人公は君に譲ろうと思うんだ。
 
僕ら馬鹿だったな 楽しかったな。
とても綺麗な場所でした
 
さよならの代わりに僕と唄おう
枯れた声も錆びた弦も みんな明日には
あの日のままの素敵な音楽に変わるから
隠れてないでさ ほら帰ろうよ。
 
 
 

cloudy under dogというバンドが、確かにそこにいた。
ひょんなことがきっかけで結成し、マイペースではあるが、約一年間、地元滋賀を中心に、ライブ活動を行った。
 
二○一三年一月十九日 近江八幡にあるCOCOZAというライブハウスにて、解散。
当日、一曲入りdemo「シンキロウ」を無料配布した。