決意

 
「フ」と身体が軽くなった気がした。ソレは確かな感覚だったはずだ。
なのに、まだ僕は空を見上げている。
いつまで経っても「負け犬」のままだ。
「現実」じゃなくて、「空想」のままだ。
 
「灰色の工場」では、ずっと何かしらの音が鳴っている。
 
大型のプレスのという重低音。
金属が触れ合う音。
設備の異常を伝えるアラーム。
 
規則的なものと、そうでないもの。そのリズムで、音楽を想像する。
たまの休憩を心待ちにして、自分自身を、「ロボット」にするのだ。
うまくいけば、八時間はあっという間だ。
 
cloudy under dogを始めて、少し軽くなった気がした身体は、実はまだ重いままだった。
スタジオの轟音では、刺激を感じなくなってしまっていた。
「もっと違う景色をみたい」
 
僕は、焦っていた。カツキと二人で話すことが多くなっていた。
 
カキゾエとルナは、適当だ。
ロクに練習してこない。自己管理も弱いから、バイトを間違って入れたり、すぐ金欠になったりする。
はじめは救われていた彼らの「ラフ」
それがどうしようもなく気になっていた。
僕は、こんなにも、毎分毎秒音楽のことばかり考えているのに、考えてしまうのに。なぜ彼らはそうじゃないのだろう。
 
「もっと、真剣に、音楽がしたい」
 
その想いは、近頃のスタジオ、ライブにも現れていると思う。
今までのような朗らかな雰囲気はc.u.dには流れていない。
 
ライブで、スタジオで彼らがミスる度、また心臓が「ピクリ」と動く。
 
それでも僕は彼らを「怒る」ことは出来なかった。
c.u.dは、「趣味バンド」だからだ。自分たちの生活を犠牲にまでして、
歪みあってまで、存在すべきものじゃない。何度も言う、彼らは悪くない。
 
悪いのは「変わってしまった僕」なのだ。
 
二つの感情に挟まれ、葛藤を抱える日々。その中で、心のよりどころとなっていたのがカツキだった。
 
カツキは、真面目だ。慎ましさもある。
しっかりと勉学に励みながら、バイトもきっちりこなし、バンドの練習も怠らない。もともとギターが上手いだけじゃない。常に向上心を持って、責任感を持って、バンドをしてる。そして、今の「ヌルい」バンド活動に対して、僕と同じく不満を持っていた。
 
僕らはずるいな。でも仕方がない。
 

「覚悟」を決めた。
 
寒くなってきた。去年の今頃はよく僕の家に集まって鍋をした。それぞれの誕生日をサプライズで祝ったりもした。
そんなことばかり頭を過ぎる。
 
「話がある。」と連絡をした。
 
そして、カキゾエのマンションへ向かった。