タクミ

 
三曲をCDに焼く。自宅のプリンターで印刷したジャケットをメンバーで手分けして空のケースに入れていく。どこにでも売っているCD-Rが、この世にここだけにしかない「僕らの音源」になっていった。今は揺れる車内のクリアケースの中で出番を待ちわびていた。
 
今日はライブだ。
 
ぼくが書いたイラストが綺麗に整列して並んでいる。名前も知らない誰かの元へいくのを待っている。
 
こんな安物のCDが、ずっと大事にされるのか、はたまた近くのコンビニのゴミ箱で捨てられるのか。ドキドキしていた。
 
そんな中、寝ぼけた挨拶がホールに響いた。
 
「おはようございまーす」
 
声の主はヤマガミタクミ。ぼくは彼を良く知っている。高校の同級生でバンドの大先輩。Swimyというバンドのギターボーカルだ。
 
そう、今日はc.u.dとヤマガミタクミの共同企画。僕らは気づけば「企画」なんてモノをやるほどに成長していた。ライブハウスとやりとりをして、出演者にブッキングをして。右も左も分からないまま当日を迎えた。初ライブの時みたいに熱は出さなかったけど、それまでのライブと明らかに雰囲気は違った。
 
リハーサルを行いながら、続々と出演者が集まる。Swimyに加え、二組のバンドがホールに集まった。初ライブで出会った「アイスクリーム」というバンド。彼らは知らないうちに、二つに「分裂」していた。プロレスラーのようなガタイのボーカルを筆頭とした「QOL」。ぼくが一番仲良くなったユウゾンがいるのは「ビデオデッキ」。
 
それぞれのリハが終わり、顔合わせへ。
 
初ライブの時、良くもまあこんな個性の塊のような面々の前で堂々とはなせるものだ、と観察していた。その役割は「ぼく」である。タイムテーブルを持った手が震えた。なんとか気づかれてないとは思うけど。
 
程なくして、会場はオープン。初企画ということもあって、僕らのお客さんもゾロゾロと頭から来てくれた。
 
いつもと違うのは、やはり「タクミ」の存在か。
 
「タクミ」はぼくにとって、間違いなく憧れの存在だった。彼がいる軽音楽室に、部活が休みの月曜日には、足繁く通った。彼が3B LABのカバーをやっていたからぼくは「星の砂」を聞いて、彼がMTRを買ったからぼくもMTRを買った。そんなヤツとぼくは今日「共演」する。
 
 
 
 
ライブは、ズタボロだった。
 
初ライブの時よりは、もちろんそりゃあいい演奏はできたと思う。だけど、Swimyの演奏力に圧倒された。僕らを見に来たお客さんも、皆、SwimyのCDを手に取り帰っていった。
 
ビデオデッキも、QOLも、演奏は下手だった。まさにSwimyの一人勝ち、といった所だった。
 
「良かったと思うで?」
 
タクミはあんなライブのあとでも変わらない、寝ぼけたような声。
 
悔しかった。
 
 

打ち上げも程なくして、二人の男がタクミに連れられぼくに挨拶してくれた。
 
オーラルシガレッツというバンドらしい。本来なら、タクミの紹介で今日このイベントに出るはずだったバンドだ。
 
「ボーカルが体調崩してしまってすいません」
 
派手な髪色をした彼は、温和な表情をしているが目の奥はどこか鋭く尖ってる。
 
「いえいえ」
 
きっと僕らなんかより上手くて知名度もあるバンドなんだろうな。本来ならここでグッと仲良くなるべきだ。だけど、できなかった。今日のライブが、ダメだったからだ。家に帰りたい。
 
今日のライブに手応えがなかったのはぼくだけじゃなかったようで、メンバー共々それなりに挨拶をして、解散することになった。
 
タクミ、タクミは、COCOZAの駐車場にオーラルシガレッツの二人と寝転んで、星を見ながら馬鹿なことを話していた。
 
僕は、バンドを始めた。少なくとも、少しは彼に近づいたはずだ。
 
それなのに、前より遠く感じるのはなぜだろう。いつまで僕は人のことを羨んでいくのだろう。
 
カキゾエが運転する車内から遠くなっていくCOCOZAを眺めながら、高校時代のことを思い返していた。