目を背けたい僕の平日

 
苦渋をなめた初ライブから、数ヶ月が経った。
 
アレからも順調にスタジオには入り、COCOZAにも何度か出演した。バンドの知り合いも徐々に増えて、Twitterに僕らのことを書いてくれる人が現れたり、県外のライブハウスからブッキングが来るようにもなった。バンドとしての演奏は間違いなく良くなってきてると思うし、何よりもライブの経験というのは別個だった。初ライブで強く感じたこと。「スタジオでできることが、ライブだとできない。」ライブ後の「精算」と呼ばれる時間では、執拗に「もっと場慣れすると良くなると思う、曲はいいんだから」と言われた。ライブを経験するたびに、少しずつ、「場慣れ」をしていったのだと思う。僕はというと、相変わらず平日は「灰色の工場」に行っていた。「バンド」は楽しい。曲を作ることによって、僕はバンドに居場所を強く感じられるようになった。まだまだ、他のメンバーに比べるとど素人だけど、「他の人にはできないこと」が僕には出来、このバンドにはそれが「必要」だ。「必要」だから「求められる」。「求められる」から「気持ちイイ」。僕は、灰色の工場で、前よりも仕事が疎かになっていた。遅刻の回数は増え、流れ作業の間はずっとバンドのことを考えてる。この頃から良いメロディを思いつくと、録音する癖がついた。携帯をさわれない仕事の間は、思いついたメロディを忘れないように何度も何度も脳内で繰り返す。そんなんだから、仕事は手に付かない。はじめは仲良くしてくれていた同僚や先輩も、徐々に僕に距離をおくようになった。ある日、僕に人事異動の辞令が届いた。新入社員の中でこんなに早く部署が異動になったのは僕だけだった。もちろん、良い意味での異動ではない。だけど、不安も不満もなかった。平日をやり過ごせば、スタジオがある。僕はそこで「求められる」。灰色の工場で、休憩時間に話す相手がいなかろうと、白い目で見られようと、心底「どうでも良かった」。僕は、ここに「興味がない」。
 
僕は、僕はまだ自分の人生を「自分で」決めたことがない。何となくで高校に入り、大学という道は親に断たれて就職した。ワガママなようで、結局はは人に決められた人生を歩んでる。そんなことは言われずとも分かっていた。
 
目を背けたくなる僕の「平日」。その分僕は強く「バンド」に居場所を求めた。ボーナスが入れば、アレやこれやと機材に浪費して、社会人だというのに僕のアパートは毎月電気が止まった。
 
「八月は東京進出」を目指して、僕らは少しずつ、前進していた。
 
「音源、作ろっか」
 
チューニングをしながら僕は言った。「曲はいい」と人は言ってくれる。ライブ会場じゃなくても、僕らの音楽に触れられる物が欲しい。
 
「いいっすね!」とカキゾエ。
 
「でもルナお金なーい」
 
その通りだ。ライブにスタジオ。バンドは金がかかる。メンバーは、僕と違って、大学にバイトにスタジオ。現状で精一杯だった。まあ僕もないんだけど。
 
「MTRで作ってみいひん?カツキ」
 
MTRとは僕がずっとdemoCDを作ってた録音機器だ。僕は全然使いこなせてないけど、やり方次第でCDは作れるはずだった。カツキは、人一倍機材に深い。僕らは自分たちで自主制作音源「cloudy under dog」を作り始めることになった。