長い、一日。

 
今思うと、いつも人のことを羨んで生きてきた気がする。
 
なんでも器用にこなしてしまう長兄。不器用だけど、一つのことを誰よりも深く掘り下げる、いわゆるオタク気質の次兄。その下で、僕はいつも兄達のあとを追いかけていた。どうしたら僕に興味を持ってくれるだろう。「こいつは面白いやつだ」って思ってくれるだろう。兄達を離れて生活するようになって、その対象は周囲の人間に移行した。クラスメイト、同じ部活仲間。「変なヤツ」って思われるのが好きだったのかもしれない。そしてそれでも僕の喉は潤わなかった。「アイツ」の容姿が、「アイツ」の雰囲気が、自分には無い。ずっと自分のことを好きになれなかった。だから休み時間はいつも廊下の隅っこにいた。と思えば底抜けに明るく人に接したり、当時の部活仲間の言葉を思い出した。「アキミチは色でいうなら黒とオレンジやな」その時々によって、雰囲気がまるで違う。「変なヤツ」と思われるのは至極当然なことだった。そして、今もこうして、羨望。
 
ムラタがヘビーで攻撃的なリフを弾き散らかした。「カッコいい」素直にそう思った。フウキはドラム。ステージに上がる前と変わらない、優しい表情。それと著しく乖離している激しいドラムから生まれるギャップが、一番奥にいるのにも関わらず存在感を強く放つ。ベース、ベースは後から聞くと「ツカモトさん」という、僕よりも年上の人だった。プレイスタイルは、派手じゃない。「ベース」という楽器のイメージ通りだった。アゴでリズムをとる姿が印象的だ。そして、ボーカル。
 
まず立ち姿が綺麗だ。中性的な見た目。冷たい目。ホールを睨み付ける。ボーッとしているようで、攻撃的。僕と、比べ物にならない経験。技術。何か自分の中でゾワゾワするものがあった。
 
「バンド」としての、レベルが違いすぎる。
 
メンバーはどう思うのだろうか。僕らを見にきてくれた人達はどう思うだろうか。そんなことを考えて、ひたすら、音と照明を浴びた。「Junk」はアンコールを受けて更にもう一曲披露し、このイベントは終幕した。
 
お客さんがバンドに挨拶し、徐々にホールに別れを告げていく。ルナはその対応に忙しそうだ。他のバンドも、常連なのか、思い思いのコミュニケーションを光らせている。僕はそんな気分になれなくて、最低限、自分が呼んだ友人にだけ挨拶をして、そそくさと忙しいフリをした。ホールがバンドマンだけになって、キッチンからいい匂いがし始めた。「打ち上げ」が始まる。
 
他のバンドとの交流は当然すべくことだ。頭ではわかっていても、そんな気になれない。まず僕らは「社長」に挨拶をしに行った。この場所の長。何を言われるのだろう。
 
「おつかれさん」柔らかい声と表情だった。「女の子はもっと、ドゥンッパ!ドゥンドゥンパッ!な?」リハと同じことを言っている。僕は何を言われるのだろう。「かっちゃん、どうですかあ?Junk、良いでしょう?」他のバンドの自慢かい。その程度で話は終わった。僕とカキゾエなんもなし???「ありがとうございました。」そう言って席に戻ろうとすると、「社長」は横にいるフウキとムラタに向かって、「アレ、ええやんなあ?ターララ〜タラらららら〜」と、僕たちの「サーチライト」のメロディを歌った。その瞬間、認められた気がした。本当に、バンドなんてやる才能なんてないのかと思った。自分が作った音楽なんて価値がないのかもなんて。この「ライブハウス」の長が、僕の作ったメロディを、覚えてくれた。褒めてくれた。胸が熱くなった。「ありがとうございます!」気づけば言葉が出ていた。
 
 

その後は、少し上がったテンションに任せて、ほんの少し他のバンドマンと交流をした。キッチンであげたフライドポテトが美味しかった。実は僕が借りたギターは、マツオカフミヤの物ではなく、「GINGER」のギターだったことを、そのバンドのドラムであるヤスダくんが教えてくれた。彼も「サーチライト」を褒めてくれた。「アイスクリーム」のギターであるヤスイユウヤと一番会話をした。彼はメンバーから「ユウゾン」と呼ばれていたので、僕もそう呼ぶことにした。彼は打ち上げ中もずっとギターを弾いていて、銀杏BOYZの「銀河鉄道」のギターソロを弾いていた。めちゃくちゃ芋臭くて、変なヤツだったけど、不思議と彼との会話は居心地が良かった。
 
しばらくして、打ち上げは終わった。機材を積んで、四人は車に乗り、帰路につく。
 
決して「成功」と言えるライブではなかったけど、終わってみると、確かな「一歩」だった。緊張のことも、ミスのことも、笑い飛ばして車内は盛り上がっていた。僕は、このバンドが好きだ。そして、不思議と早く「ライブ」がしたい。長い一日が終わり、僕は死んだように眠った。